さて、より効果的な眼精疲労の治療を行うためには、目や眼球の周囲に適切かつ安全に鍼を刺す技術を習得する必要があります。
では、目の周りに、どのように鍼を打てば良いでしょうか?
しかし、ここで問題があります。鍼灸の教科書や参考書に、眼球周囲への刺鍼法を詳しく解説したものを見たことがありません。つまり、日本では、眼球周囲の刺鍼方法に関する情報が圧倒的に少ないのです。
中国などには、鍼を眼球に沿わせて眼窩深部まで刺入する眼窩鍼という手技があります。皆様は、どちらかと言うと「危険な技」「ベールに包まれた秘伝」のようなイメージがあることでしょう。
そのような中、私たちは、延べ7万件以上の患者さんの目の周りに鍼を打つという経験を積んできました。その経験から、以下の5つのポイントを軸に、目の周りに鍼を打つ技術を解説したいと思います。
眼窩縁の硬結に着目
よく小さい字を見る際に、眉間にしわを寄せたり、目を細める人を見かけます。眼精疲労などで視機能が低下してくると、ピント始動・保持、視界補正が、目の周りの「筋肉の力み」によりアシストされる場合があります。このような場合は、眼輪筋など表情筋の付着部に慢性的な負荷が掛かり、その代償として特定の部位に「硬結」や「骨隆起」を生じます。
その他、眼窩縁には、乱視の人に出来やすい硬結、老眼の人に出来やすい硬結、ドライアイの人に出来やすい硬結、斜位の人に出来やすい硬結、視野が欠損してる人に出来やすい硬結、物が歪んで見える人に出来やすい硬結などがあります。
触察による骨形状の把握
人によって骨格や筋肉の形状は大きく異なります。眼窩部で言えば、堀の深い人もいれば堀の浅い人もいます。また、目の周りの筋肉が痩せている人もおり、特に高齢者の場合は瞼や眼窩脂肪が少ないことがあます。その為、触察によって、患者さんの眼窩形状を立体的に把握する必要があります。特に眼窩鼻側上部は、集中的に鍼を打っていきたい部位です。前頭切痕、眼窩上孔などを触察によって3次元的に把握する必要があります。
こちらは、34歳の男性のCTグラフィックスです。眼窩部では前頭切痕部に負荷が掛かり、骨形状にかなりの凹凸が出来ているのが解ります。実際の患者さんも、目の使い方により、様々な骨形状を呈しています。