一般的に鍼治療は現代鍼灸、中国鍼、伝統鍼灸、経絡治療、積聚治療、スポーツ鍼灸、美容鍼灸など、様々な手法や流派、専門分野があります。その中で、小宮式は「現代鍼灸」を治療のベースにしています。
現代鍼灸とは、解剖・生理学、内科学、整形外科学、脳科学など、最新の医学的知識をベースに、筋肉や神経にアプローチし、筋緊張の緩和や痛みの軽減、関節可動域の改善、血流や代謝促進、ホルモン調整、疼痛抑制などを図るものです。
特に小宮式は、眼科領域の医療知識を踏まえ、鍼治療で眼精疲労の改善を図ることを目的としています。そのため、東洋医学で用いられる脈状、陰陽、気血、経絡などの治療概念に基づいて行う治療とは異なります。
但し、経絡治療をメインで行っている先生の場合は、目の周りに限り、接触鍼による標治法として眼精疲労の施術を追加することは可能だと思います。接触鍼による目の施術は第六章をご覧ください。
小宮式の着眼点
小宮式は、目の酷使によって、広範囲に生じた「筋肉のこり」「神経疲労」「血流不全」に着目しています。そのため、鍼で「こり」を取り除いていくことが最大のポイントとなります。よく鍼灸師の方に、「こりに鍼をする治療(標治法)で病気が治るのか?」という質問を受けます。しかし、小宮式では、眼精疲労治療において、視機能の足枷となる「種々の筋肉のこり」を取り除くことが回復の早道と考えています。
では、なぜ目を酷使すると、目の周りや首肩が凝るのでしょうか?その鍵となるのが「目で物を見るの仕組み」です。
眼精疲労は、コリの病(やまい)
一般的に私たちが物を見る過程は3つに分けられます。第一が、瞼を開け、角膜・水晶体を透過した光を網膜に収束させる段階。第二が、網膜細胞により光が電気信号に変換され脳に送られる段階。第三が、脳で電気信号を画像として処理する最終段階です。
このうち、第一段階では、脳が最適な画像処理を行えるように、目や身体の様々な筋肉による協調運動が行われます。
・瞼の開閉(光量調節や涙液調整)
・ピント調整(毛様体筋)
・瞳孔調節
・眼球運動(寄せ目・向き目)
・眼輪筋と眼瞼挙収縮による集中・固視動作
・頭部(視線)を固定する姿勢保持筋(首肩部)
・体幹を固定する姿勢保持筋(腰背部)
これらの筋運動は、神経によって制御され、血液により栄養供給を受けています。目を酷使することにより、視機能を支える筋肉に労作性疲労が起こります。そして、血流や代謝が不足した状態引となります。
つまり、眼精疲労は、目の酷使によって、慢性的な筋疲労が広範囲に起きている状態であり、私たち鍼灸師は、筋疲労を「こり」として触知します。尚、毛様体筋や眼外筋などは触知できませんので、それらの「代償性のこり」を探し当てアプローチします。
視機能を支える、これらの筋肉が疲労を起こすと、脳が上手く画像処理を行えなくなります。その結果、脳に余計な負荷がかかります。いわゆる、視覚性脳疲労の状態(神経疲労)となります。これが重度眼精疲労や自律神経失調症の原因です。さらに精神的ストレスが加わると難治性となります。
眼精疲労とは何か?(小宮モデル)
目の酷使や眼病によって生じた眼の不具合により、目首肩背中に広範囲な「コリ」が蓄積し、脳(精神)に負荷が生じた状態。目の機能不全や、頭痛、めまい、身体の痛み、自律神経失調症、慢性疲労などを来す。
つまり、鍼灸治療によって、眼精疲労で生じた「種々のコリ」を取り除くことこそが、結果的に患者さんの目の辛さの解消に繋がる。それが、小宮式の治療概念です。
目の酷使によって生じるコリのポイント
PC作業やスマホによる眼精疲労では、多くの場合、以下の部位に「蓄積したコリ」を触知できます。小宮式では、これらの部位に「コリの核」を見つけ、そこに鍼を打つことが基本となります。
基本治療治療(基本穴)では、目の周り・前頸部に左右で16本の鍼を打ち、背部にも同じく16本の鍼を打ちます。そのうえで、症状が重い場合は鍼を追加します(追加穴)。また、眼病治療を合わせて行う場合は特効穴にも鍼を行います。
鍼を打つ場所は経穴を目安にしますが、あくまでコリを取り除くのが目的なので、しっかりと触察を行い、狙いを定めて鍼を打ちます。詳細は第六章に譲ります。
小宮式では、基本的にNEOデスポの寸3-1番、2番、3番を使用します。刺激が苦手な患者さんや、鍼が初めてで不安な方はセイリンデスポ寸3-1番、2番を使用します。鍼を刺し置鍼を行います。
「鍼の選択」と「刺激量の調整」
小宮式では、目の周囲に対するアプローチとして、「通常鍼」「美容鍼」「鍼通電」「てい鍼」の4つがあります。子供の場合や鍼を怖がっている場合、また鍼の刺激に敏感な場合は、「美容鍼」または「てい鍼療法」を用います。
また、経絡治療など、刺鍼そのものが不適合な場合も、てい鍼療法を選択します。実際に当院では、経絡治療を行う場合は「本治法」と「目の周りのてい鍼療法」を同時に行います。尚、シェーグレン症候群などの患者さんに対しては、鍼通電療法を行う場合があります。
小宮式で使用する鍼
鍼はステンレスのディスポ鍼を用います。鍼は全て使い捨て、再使用はしません。患者さんの症状、鍼の感受性や内出血のリスクなどを総合的に判断して、鍼のメーカー、素材、太さ、長さを選択します。
当院の場合は、9割の患者さんに「NEOディスポ4本パック寸3の1番、2番、3番」を使用しています。その中でも、寸3の2番を基本としています。残りの1割の患者さんにはセイリンJSP寸3の1番、2番を使用しています。
また、内出血や刺激過多のリスクを踏まえて、基本部分はNEOディスポを使用し、一部はセイリンディスポに変更する場合があります。特に、目の下は内出血しやすいので、セイリン美容鍼タイプで施術するケースが多いです。